書評

書評:「Learn or Die 〜死ぬ気で学べ〜」

概要

研究者集団企業であるPFN(プリファードネットワークス)社の歴史から組織環境を改善するために何を行っているか紹介している本

一般的なメガベンチャー企業の苦労話やここまで大きくなるまでにどういった背景があって、実は今の形になるまでに二転三転した話はネット上に転がっている資料やカンファレンスで聞く機会は多々あるが、R&Dをメインにやっている企業の生い立ちを知る機会は意外と少ない。
組織での評価軸をどこに置いているのかの他社との違いも気になる部分ではあるが、書籍内に記載されていた。

この本は大きく分けて、
・PFNが何をやっているか
・PFNという会社が出来上がった背景
組織で重要視していること
PFNの価値基準をどこに設けているか
・資本政策の軸はどこにあるのか
・PFNが見据える未来の展望
について書かれている。
他にも深層学習やハードウェアの技術についても一部触れられているが、知っている人には釈迦に説法の内容になっているのでここでは触れない。

PFNという企業って何?

PFNはAI業界に身を置いていれば知らない人はいないとは思う。
PFNは「chainer」や「optuna」という深層学習を効率的に開発を行うことができるツールをオープンソースとして提供している会社という認識が一般的な気がしている(アプリケーションサービスの提供しているが)。
これを踏まえて、技術者集団という前提でこれからの話をします。

企業として重要視していること

社内エンジニアのモチベーションを維持するために、要件が決まっている下請けのような単純な仕事を引き受けるのではなく、自由度が高い共同研究を行うことができれば、エンジニアたちが社会に新しい価値を提供できるのではないかという仮説を立て現状の形に落ち着いたと語っている。
ここでいう自由度とは、ゴールは決まっているがその過程は任せている状態などのことをいう

この考えに至ったのは、モチベーションを高めることで様々な創意工夫も可能だし想定以上の成果もあげることができる。
熱中して夢中になれるのであれば、仕事をしていても楽しいし、学びも多いということだ。
これは経験談に基づくものらしい

これを踏まえて、企業はそういうモチベーションを高く保てる環境を作ることが重要と締め括っている。
具体例としては、ゴールを設定するだけでは上手く行かないケースも多々あるので、タスクの難易度設定が欠かせないとのこと。

組織内で重要視していること

知識は資産のようにストックできるものではないので、常に情報を取り入れ改善する必要がある。
つまり、新しいことを常に取り入れていないと技術者として死んでいる状態になってしまう。
PFNはこれを危惧して、組織環境を整備している。

チームや組織で学んでいくことも重要と考えていて、個人毎の得意分野を明らかにすることで自分が持っていない専門分野を別の人に聞ける環境を用意する。
こうすることで、チームで課題を解決できるようになる。

顧客や現場の人たちから、「こうすれば解けるだろう」と言われその通りに実行するのは最適ではない場合が多い。
そこで注意を向けるべきなのは、現場が考えているソリューションではなく、現場がこうしたいと思っているニーズである。技術者の役割は画期的な(現場の人が思いつかない)方法で課題を解くのが一番良いとしている。

設定されたゴールを達成できなくとも、何かしらの課題を解決していく上で得られる技術も価値があるので、研究するだけでもメリットがある。
つまり、失敗を許容する組織内環境は最先端技術開発を推し進める上で必要だという考え方。

経営者や幹部の役割

ビジネスを円滑に進める上で物事を迅速に進めることは必須。問題が起きたとしても、基本的にはすぐに意思決定し解決することができることがほとんどである。ここでやっていけないのは、問題を先延ばしにして、物事が決まらない状況を作ること。

評価軸

評価の軸としては、相手のことを尊重できて自身に取り込めているかという「成長の軸」を重要視している。技術者の集団なので、定量的に測れる項目が少ない上に、それをベースにしてしまうと不平等が生じるため。

まとめ

全体を通してみると、ターゲットをどこに設定しているのかが分からなかったが、PFNを知ってもらいたいというスタンスは垣間見えた。
組織環境整備の仕方や、社員のモチベーション維持と企業として目指す方向性を吟味した上で何を行っていく必要があるのかという考え方は興味深かかった。